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2008.01.07

「ドルフィンホテル」と「いるかホテル」を行ったり来たり

かなり、大分、と言えるくらい悲しいお話を読みたかった。そしてとっぷりとその悲しみにひたりたかった。それで読んでみたのが石田衣良だった。ところが予想に反して全然悲しくなかった。全く悲しくなかったという訳ではないが、どちらかいえば未来のあるお話で、明るく爽やかでさえあった。それはそれで、思わぬ収穫ではあったのだが、やはり悲しいお話が読みたい。本屋でたまたま、「20年前に生まれた本」という企画の棚があって、そこに真新しい手あかの着かないピカピカのカバーの『ダンス・ダンス・ダンス』が上下そろって飾ってあったのを見た。あっ、これが読みたいと思って、買わないで、近くの図書館にあるのを借りて読んでみた。まだ途中だけど、イキナリもうハルキのセカイにひきずりこまれてしまったのだ。現実の世界と心理的現実の世界というのか、その間を行ったり来たりしながら、ミステリーのように主人公の今ある問題を少しずつ解き明かしていく。暗喩というのだろうか、世界や社会に対する感じ方を、抽象的に暗示しながら、ストーリーとしての面白さを追求しつつそれを文章にしていく。果たしてそんなことが人間に出来るのだろうか? 自分が文章を書くときのことを考えればその素晴らしさが分かる。1988年の1年前には『ノルウェイの森』、その前には『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』が出ている。悲しいということでは『ノルウェイの森』には勝てないけれど、不思議の国のアリスの穴の世界と現実を行ったり来たりという『境の終わり』のあの手法によって、お話はどんどん進んでいく。奥さんに逃げられてしまった主人公は自分の「ある傾向」がそれを招き、周りを不幸にしていると、何となく気付いている。それを探す旅に出ているのだろう。ベースにはそんな悲しみが漂っている。まだ途中だけれど、主人公はまだ覚醒途中であり、その時点での大量生産・大量消費の社会に対する批判、そしてその時代を今行きている自分といったことが、物語の中で会話や暗喩によって、気付くことがある。20年前、それはどんな時代だったのだろう。どんな歌が流行っていたのだろう。僕にとっては、思い出そうとしてもなかなか思い出せない。前の年に出たノルウェイの森』を読んだときは覚えている。あのときは衝撃的だった。しばらくあの悲しみから抜け出せなくなるくらい悲しかったのを覚えている。数年前の自分に重ね合わせて。その後、『ねじ巻き鳥』『カフカ』『世界の終わり』『短編集『アフターダーク』と順不同で読んできて、今『ダンス・ダンス・ダンス』を読んでいる。かなり悲しいといえるのかいえないのかまだ分からなけど、いまは「ドルフィンホテル」と「いるかホテル」を行ったり来たりしている。その後どんな風に展開していくのだろか。

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